おもにライブ配信用としてAG03を使ってきた経験と、用としてテストしてきた結果をもとに、機種選びのアドバイスをしたいと思います。
内容はかなり初歩的です。
スペックシートをきちんと読める方なら当たり前とすぐにわかるようなことですが、機材に詳しくない方の参考にはなるかと思いますので、初心者の方はおつきあいください。
この記事の目次
AG03は3チャンネルなのか?
ヤマハAG03の主な入力端子は次のようになっています。
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マイク/Line入力兼用のXLR端子
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ギター/Line用の標準フォーンジャック
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このほかに、ヘッドセット用の入出力とAUX入力用にミニジャックがありますが、ここでは割愛します。
このうち2と3は選択式で、どちらかに切り替えて使うようになっています。
つまりボーカル+ギター用として使うばあいは2チャンネルですが、ステレオ入力用のフォーンジャック(L、R)を使えば3チャンネルが使えるわけです。
なので製品名としてもAG03と3チャンネル仕様をアピールしているように思われます。
ただしこれはあくまでミキサー部の話です。
オーディオI/Fとしては2CH仕様
いま思い出すとかなりお恥ずかしい話ですが、AG03を使ってSyncroomにギターをステレオ入力できないかトライしていました。
ミキサー/マルチトラックレコーダーであるZOOM LiveTrak L-8だと簡単にステレオ入力設定ができるんですが、AG03の場合、入力チャンネルが1と2だけで3を選ぶことができません。
Ch1はマイク用、Ch2はギター用またはステレオ入力の左チャンネル用なので、Ch2とCh3を使ってステレオ入力にするという設定はできない訳です。
AG03は3チャンネルという思い込みがあって、ここでしばらく悩んでしまいました。
結論からいうと、ミキサー部は確かに3チャンネルなんですが、オーディオインターフェイス部分は2Ch仕様なのでCh3はもともとパソコンへの入力には使えないのです。
つまり、SyncroomでもCh2とCh3のステレオ入力設定は原理的にできません。
ドライバーのアップデートでなんとかなるという類いの問題ではありません。
しっかり理解していればすぐわかることだった
オーディオインターフェイスについてしっかり理解し、機材のスペックをきちんと読んでいればこんな誤解はそもそも起こりません。
AG03の公式ページでも、USB オーディオの項にはちゃんと”2 IN / 2 OUT”と書かれています。
ミキサー部は3Chでも、PCへの入力は2Chしか使えないのは明らかです。
ただ、ひとつ見落としそうなポイントがあります。
Syncroomでは、ふたつのチャンネルをステレオ入力として扱う設定が可能ですが、このとき使えるのは先に述べたとおり、Ch1とCh2のペアのみで、Ch3はそもそも使えないという点です。
なのでチャンネル2と3のジャックにそれぞれ入力してもステレオにはなりません。
実は外観だけでも2Ch入力仕様だとわかる
ムリヤリCh3を使おうと思ったら、TO PCのセレクターを”INPUT MIX”にすれば使えないこともありませんが、それだと3つのチャンネルすべてをミックスしたモノラルになってしまうのであまり意味はありません。
つまりステレオ出力キーボードを接続してDAWでレコーディングするような使い方にはそもそも適していないということです。
実は、このCH3をPCへの入力に使えないという仕様は、外見からもわかります。
TO PCのセレクターで”DRY CH 1-2"というポジションがあり、Ch1とCh2をPCへ送れることがわかりますが、Ch3とは書かれていません。
勘のいい方なら「ああチャンネル3は対応してないのだな」とわかるんでしょうが、私は”DRY”の意味がわかっていなかったのもあって、深く考えていませんでした。
”DRY”というのは、ここでは1、2Chをミックスせずに”それぞれ別チャンネルで送る”といった意味です。
AG06も同じく2Ch仕様
では、上位機種で入力端子の多いAG06はどうでしょうか。
ステレオ用に3/4Chと5/6Chがあるので、これを使えばPCへのステレオ入力が可能かもと期待してしまうかもしれませんが、仕様を見るとやはり”2 IN / 2 OUT"ですし、TO PCのセレクターも”DRY CH 1-2”なので、AG03と同じだとわかります。
AG シリーズ MkIIはどうなったのか?
では、モデルチェンジしたMk IIはどうなったかというと、オーディオインターフェイス部分の仕様に大きな変更はなく、2 IN / 2OUTはそのまま継承されています。
外観上はTO PCとなっていたモードセレクター部のグループ名がSTREAMING OUTに変りましたが、ポジション自体は”DRY CH 1-2"と従来どおりです。
AGシリーズは”ライブストリーミングミキサー”
ここまで解説してきたとおり、Yamaha AGシリーズはあくまで2Chにミックスした音源をPCへ供給することを目的として作られています。
なので、マルチチャンネルを活かした音楽制作には向いていません。
性能が要求を満たしていないのではなく、用途あるいは設計思想が根本的に異なっています。
そもそも従来のAGシリーズは「ウェブキャスティングミキサー」に位置づけられていましたし、新しいMk IIは「Live Streaming Mixer」となっています。
ではDTMともライブストリーミングともちょっと違うSyncroomはどうでしょうか。
もうおわかりのとおり、モノラル入力でよければ使えるし、ステレオ入力にこだわるならAGシリーズは避けるべき、ということですね。
AGシリーズでもOKなケース
もちろんAGシリーズでも音楽制作にまったく使えないわけではありません。
ボーカルのみやマイク1本とギター1本での弾き語りだったら、旧機種のAG03でも充分です。
コンデンサーマイク2本を使えるようになったAG06 MkIIなら、デュエットでのボーカル収録やコーラスでもあるていど使えるでしょう。
コンデンサーマイクを2本立ててのアコギ収録も考えられますが、パンを設定できないのでステレオ効果のバランス調整まではできません。
そういうところはDAWに頼ることになります。
AGシリーズが向く人/そうでない人
結局、AGシリーズの本質はライブ配信用のミキサーで、そのために2Chのオーディオインターフェイスを備えた機材ということになります。
ひとりまたはふたりでのライブ配信用、あるいはポッドキャスト番組作成用としてはたいへんお奨めですが、将来的に音楽制作もと考えているなら、いったん候補から外してほかの機材も検討することをお奨めします。
もちろん音楽制作用としても、ボーカルやギター専用としてなら充分ありでしょう。
売れている機材だからといってうかつに飛びつかないように、自分の用途をじっくり見極めてください。
AG03、AG06でステレオ信号を扱うときの制限
- AG03/AG06でPCへのステレオ入力に使えるのはCh1、Ch2のふたつだけ
- Ch3以上を使うにはINPUT MIXモードにする必要がある(結局モノラル化)
- (以上により)AG03でキーボードのステレオ入力は事実上使えない
- AG06ではCh1、Ch2をライン入力に使えない(両方マイクは可)
- AG06でマイク2本の場合もパンによるステレオ効果の設定ができない(DAWが必要)
- AG06のギター入力はCh2のみなのでギターのステレオ収録も不可
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