そしたら、マルチトラックレコーダーの中には、コントロールサーフェイス(別名「フィジカル・コントローラー」)として使えるものがあるのが判明(MTRに慣れている人にはいまさらでしょうが)。
で、「これが動画編集ソフトDaVinci Resolveでも使えたらなぁ」と思っていたら、なんとちゃんと使えることが判明!
俄然興味がわいてきたので、本格的に製品情報を調べます。
この記事の目次
コントロールサーフェイスとは?
DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション/音楽制作ソフト)では、トラックごとの音量調整といった操作画面を備えています。
また、動画編集ソフトにも同様の画面をもつものがあります(DaVinci Resolveの”Fairlight”ページとか)。
これらの操作画面は、現実のレコーディングスタジオにある調整卓(ミキシングコンソール)を模したデザインになっていて、音量調整のフェーダーなどはマウスで操作します(タッチパッド対応のもあるらしい)。
これでパソコンの中だけで音楽制作ができるようになったわけですが、それでも使いづらいのでパソコン画面上の調整卓を操作するだけの専用コントローラーが登場しました。
それがコントロールサーフェイスやフィジカルコントローラーという製品です。
これで実際にフェーダーを触ってボリュームを調整したり、”ミュート”や”ソロ”といった機能を押して操作できるようになりました。
曲の途中で音量を調整するような操作は、やはりある程度可動範囲の広い(長い)フェーダーのほうが微調整が効いて使いやすいですね。
DAWコントローラーとして使えるMTR
コントロールサーフェイスは、DAWと連携して使うものなので、本来、それだけでは動作しません。
ところがマルチトラックレコーダーの中には、コントロールサーフェイスとして動作するモードを持つものがあります。
こういうタイプだと、本来のレコーダーとして持ち運んで使う一方、帰宅したらパソコンにつなぎ、DAWのコントローラーとして使うといったことが可能になります。
ZOOM社のR16やR24といったマルチトラックレコーダーは、2009年前後に発売されたかなりご長寿の製品ですが、すでにコントローラーとしての機能を持っていたというのを初めて知りました。
DAWコントローラー機能付きマルチトラックレコーダー ZOOM R16
DAWコントローラー機能付きマルチトラックレコーダー ZOOM R24
ZOOM R16やR24の実売価格は3万円~3万5000円程度です。
DAWコントローラーの規格
DAWとコントロールサーフェイス(もちろんマルチトラックレコーダーも含みます)を連携するには、DAWソフト側の規格に対応する必要があります。
コントロールサーフェイスの製品情報を眺めているとMackie互換というフレーズが目に留まるほか、HUIという規格もあるようです。
さらに調べてみたら、実はどちらもMackie社が生みの親で、HUI規格が先に登場し、その後”Mackieプロトコル”と呼ばれる規格が作られたようです。
この”Mackieプロトコル”が、いわゆるMackie互換だと思われます。
ちなみにMackieは高音質なミキサーやPA機器を製造販売しているメーカーとして有名です。
DaVinci Resolveの純正コントローラー
高機能な動画編集ソフトDaVinci Resolveには、動画編集用のキーボードやカラー調整用のコンソール、オーディオ編集用のコンソールなどが多数販売されていますが、そのほとんどは本格業務用のかなり高価なものです。
いちばんシンプルな12トラックのチャンネルフェーダーで40万円とか。
もし、R16のような低価格のマルチトラックレコーダーがDaVinci Resolveでも使えたら、整音関係の作業はずいぶん楽になるだろうなと思いましたが、実は実際にDaVinci Resolveではメーカー純正のコントローラー以外に、HUI規格にも対応しているのがわかりました。
次の画面は、DaVinci Resolveの「環境設定」画面から「コントロールパネル」を開いたところです。
この場合「コントロールパネル」はパソコンで言うような環境設定のことではなく、コントロールサーフェイス/フィジカルコントローラーを指しています。
カラーグレーディングパネルのほうが色調補正用のコントローラーで、オーディオコンソールが”Fairlight”ページで使用するミキシングコンソール類になります。
コントローラー類をなにもつないでいないと、最初”Fairlightコンソールに選択”のところは”None”になっていてドロップダウンリストを開いても、ほかに選択肢はありません。
しかし、”MIDIオーディオコンソールを使用”にチェックすると、隠れていた設定項目が展開し、MIDIプロトコル/MIDI入力/MIDI出力の3つが現れます。
このうち”MIDIプロトコル”こそがDAW用コントローラーのための規格で、HUI Compatibleという項目があるはずです。
ちなみに、MIDI出力/MIDI入力のふたつは、実際にHUI対応をつないだ時の機種選択になるようです。
DaVinciでも使えるHUI対応コントローラーはどれだ?
これでDaVinci Resolveでも「オーディオ編集であれば」メーカー純正以外のコントローラーが使える道が見えてきました。
ではさっそく、どんな製品があるのか、個人でなんとか手が届きそうな低価格製品を探っていきましょう。
KORG nanoKONTROL Studio
電子楽器で有名な日本のメーカー、コルグ社が発売している超小型のオーディオ編集コンソールです。
8トラックのチャンネルにフェーダー、パン、ミュートその他の4つのボタンがあり、左側には再生/停止などを操作する”トランスポート”コントロール類やジョグダイヤルがあります。
実売価格は1万4000円前後。
HUI対応とは明記されていないようですが、サポート製品の中にProToolsの名前があるので、間違いなく対応していますし、すでにDaVinci Resolveでテストされた方のレポート記事もあります。
ただしその中では、残念なことにジョグダイヤルを操作すると高速の早送り/早戻しが始まってしまい実用性に問題があったとレポートされていました。
カスタマイズ専用のアプリケーションがあるので、がんばればなんとか使えるようになるかもしれませんが。
音楽制作ソフトや音源がかなり付属しているので、DaVinci ResolveとDAWを併用してみたい方にはいいかもしれません。
iCON Digital Platform Nano / Platform Nano Air
KORG nanoKONTROL Studioは8本のチャンネルを操作できましたが、こちらは1本だけを操作できるコンパクトなコントローラーです。
フェーダーは一本ですが、ページ切り替えのような形でチャンネルを切り替えながら作業するようになってます。
またこのフェーダーはモータライズドタイプで、DAW側で音量が変わるとモーター駆動で自動的にフェーダーの位置が連動で動きます。
正直言って、1チャンネル仕様とはいえ、実売1万4000円ほどでモータライズドフェーダー搭載のコントローラーが手に入るのは驚きでした。
モータライズドフェーダーは、FairlightやDAWのオートメーション機能に絶大な威力を発揮します。
たとえば曲の途中で音量を調整したいとき、オートメーションをオンにしてコントローラー側のフェーダーを操作すると、DAW上のフェーダーが連動して音量が変わります。
オートメーション機能はそれを記憶してくれるので、以後は再生するたびにコントローラー側のフェーダーが勝手に動くというわけです。
DAW上のフェーダー位置と、コントローラーのフェーダー位置が常に一致するので勘違いによる操作ミスなどは激減します。
また、フェーダーの位置を覚えてくれるので、フェーダーの位置を細かく記録してなくても以前のデータを読み込んで簡単に元の位置を復元できます。
いろんな曲を切り替えながら作業するときももちろんですが、持ち運んで使用するときも、移動のたびにおきるフェーダーのずれを気にしなくてよくなります。
いろんなDAWソフトに対応できるように、ボタンの機能を記したオーバーレイシートが付属しています。
姉妹機のPlatform Nano Airは、Bluetooth接続をサポートしたワイヤレス接続モデル。
なおPlatform Nanoをワイヤレス仕様にグレードアップできるオプションのユニットも発売されています。
実売価格はUSB接続のPlatform Nanoが1万6000円前後。
ワイヤレス仕様のPlatform Airは2万円程度になります。
iCCON Digital Platform nanoのページ
iCON Digital Platform M+
さらに驚きなのが上位モデルのM+。
なんと8チャンネル+マスターの計9トラック対応モータライズドフェーダーで、実売価格は3万円未満。
さらに、チャンネル数を増やせる拡張コントローラーや拡張ボタンなどのオプションもあって発展性まで備えています。
拡張ボタンユニット Platform B+
拡張フェーダーユニット Platform X+
Studio Logic SL Mixface
Bluetooth接続とUSBの同時接続も可能なコントロールサーフェイス。
8チャンネル+マスターの9トラック仕様です。
MIDIコントローラーとDAWコントローラーを切り替えて使えるのでおそらく本来は楽器用なんでしょうね。
HUI対応は明記していませんが、これもProToolsがサポート対象になっているので問題ないでしょう。
価格は3万5000円程度
海外製品で、国内代理店のサイトがないようなのでサポート面では不安があります。
NEKTAR PANORAMA P1
こちらも8チャンネル+マスターの9トラック仕様。
ページの製品説明がわかりにくいんですが、Logic Pro、Cubase、Bitwig Studio、Reaper、Reasonなどのソフトにはネイティブモードで対応し、その他のDAWについても汎用のMIDIコントローラーとして利用できるようです。
実売価格は3万7000円前後。
Presonus FaderPort
最近Fukuzumiも使い始めたDAWソフト、StudioOneの発売元PreSonusからもコントロールサーフェスが3機種発売されています。
FaderPortはそのなかでも1チャンネル仕様のベーシックモデル。
カラー発光とボタンの大きさの違いで視認性がよく、さらに可動範囲100mmのロングストロークなモータライズドフェーダーで微妙な操作を可能にしています。
Platform nanoと比べるとややお高く、むしろM+に近い金額になるのでやや中途半端に感じるかもしれません。
Presonus FaderPort8
FaderPortの8チャンネル仕様。
実売価格は11万円前後。
PreSonus FaderPort 16
FaderPortの16チャンネル仕様。
実売価格は20万円前後。
Presonus ioStation 24c
こちらは、FaderPortにUSBオーディオインターフェイスを組み込んだようなハイブリッド仕様という、個性的な製品。
つまりUSBケーブル一本つなぐだけで、オーディオインターフェイスとコントローラーのふたつの機能が得られます。
オーディオI/Fは、24bit/192kHz対応のハイレゾスペック。
2系統のマイク入力端子(コンボジャック)があり、48V供給が可能なのでコンデンサーマイクも使えます。
アウトプットは、標準のTRSフォーンジャック(L/R)とモニター用ヘッドフォン。
入力2チャンネル+出力4チャンネルのUSB-C接続なので24cということですね。
これで、入力端子がHi-Z対応だったらエレキギターまで繋げられて最高なんですが、そこはちょっと我慢しましょう。
それから、基本的に配信用途(ループバック)などは考えられていないと思います。
実売価格は3万6000円前後。
オーディオインターフェイスとPlatform Nanoをいっしょに買うと考えると妥当なところでしょうか。
1チャンネル or 8チャンネル?
さて、ここまででピックアップした機種をざっと見ると1チャンネルのものと8チャンネルまたは8チャンネル+マスターのものに別けられます。
これは、利用目的しだいで案外簡単に割り切れそうです。
動画に限らずステージ用の音響制作なんかで、いくつものトラックを同時にフェーダーで操作するような使い方だったら8チャンネルが必須です。
「フェーダー8本じゃ足りない」ということがあるかもしれませんが、だいたいは複数トラックをひとつにまとめるグループバス機能があると思うんでそれでカバーできるでしょう。
一方、音楽制作などでひとつのトラックだけを集中的に操作するんだったら1チャンネル仕様でも充分です。
どうせトラックごとに切り替えての編集になりますから。
フェーダー操作はオートメーションで書き込んでいくとなればなおさらでしょう。
モータライズド or Not
フェーダーはモータライズドじゃない方が当然安いんですが、iCON Digitalの Platform Nanoがあの価格なんで、もうほかはあまり考えなくていいと思います。
編集する動画や曲が変わるたびにフェーダーの位置をいちいち調整しなくていいというのは、なによる楽なはずだと容易に想像できます。
また編集・再生中でもオートメーションに応じてフェーダーが勝手に動いてくれるのでその後の操作ミスも防げます。
唯一気になるのは、信頼性/耐久性ですが、これは数年にわたって使ってみないとなんともいえません。
そういう意味では、国産品(いまはないみたい)か国内にしっかりした代理店があるところが有利。
iCON DigitalやPreSonusはよさそうですね(もちろん実際のサポート体制は不明)。
ちなみに可搬性は?
フェーダー1本タイプのPlatform Nano/Airや、Fader Port、ioStation24cなどはそこそこコンパクトではありますが、持ち運びはあまり気にしません。
出先で作業することはないと考えるからです。
DAWのばあい、編集結果をパソコンで持ち運んで現場で再生するというのはあるでしょうが。
参考までに重量を上げておくと、Platform Nanoは1.24kg、ioStation24cは1kgとなっています。
フェーダーを使った微妙な操作を考えると、あまり軽すぎて本体が動いてしまうのは論外ですから、まぁ可搬性は気にしないのがいいでしょう。
Platform M+か、ioStation24cか
以上、個人でもなんとか手が出そうな5万円以下の機種を中心に(FaderPort8と16は除く)ピックアップしてみました。
こうしてみるとこの価格でモータライズドフェーダー装備のiCON Digitalのコストパフォーマンスが際立ちますが、PreSonusのiOStation24cも気になります。
なんといってもこの製品をはじめとするPreSonus製オーディオインターフェイスには、総額10万円以上ともいわれる豊富な(いや膨大な)ソフトウエアのライセンスが付属します。
動画編集オンリーの人は無視して構いませんが、私のように音楽もちょっと作ってみたいなぁと色気を出している人間にはたまらんものがあります。
ソフトウェア音源やエフェクター類のプラグインだけじゃなく、BGMやサウンドエフェクト類も含まれるようなので、ステージ演出なんかを考えている人にも魅力があるんじゃないでしょうか。
DaVinci Resolveで使えるコントロールサーフェイスのポイント
- HUIプロトコル対応
- HUI対応を明記してなければProTools対応のもの
- 映像/音楽制作用なら1チャンネル仕様で充分
- モータライズドフェーダーが圧倒的に便利