32bit float収録で音割れへの耐性が非常に高いところが魅力なんですが、スペックを調べてみたら残念なところも見つかったので、そこにもフォーカスを当てつつ概要を紹介します。
この記事の目次
Essentialシリーズ登場
NAMM 2024で登場したのはH1 Essential、H4 Essential、H6 Essentialの3モデルです。
下の写真は宣材用でスケールが統一されていないようです。
ネーミングのルールは従来どおりで、ステレオ2ch入力モデルが”H1”、内蔵ステレオマイク+入力端子2系統の4チャンネルモデルが"H4”、ステレオマイク+入力端子4系統の6チャンネルモデルが”H6"となります。
本体搭載マイク以外にXLR入力を4系統使えるH6eは小規模編成バンドの録音やポッドキャスト番組の収録にぴったりでしょう。
一方、現行モデルはH1n/H1n VP、H2n、H4n Pro Black、H5、H6n Pro Black、H8の5モデル(H3-VRは特殊なのでここでは省きます)。
このうち、H2n、H5、H8の3機種はまだメーカーサイトから購入できますが(24年2月下旬)、その他は購入ボタンがついてないので、すでにディスコン状態で、近いうちにEssentialシリーズに置き換わるものと思われます。
以後、Essentialシリーズの各モデルを、H1e、H4e、H6eと表記します。
音割れしないのでゲイン調整省略
Essentialシリーズの特徴はなんといっても32bit float録音に対応したところです。
大音量による音割れが発生しにくいため、録音レベルの調整が不要でセッティングの手間が減り、ミスの心配がなくなります。
外観上もゲイン調整ダイアルが廃止され、すっきりした印象になりました。逆にいうとメカっぽさはトーンダウンしてちょっとおもちゃっぽくなったようにも感じます。
マイクカプセルも32bit float対応に
上位機種であるH5、H6、H8の3機種は、マイクユニットを交換できるマイクカプセルに対応していました。
EssentialシリーズのうちH6eについてはマイクカプセル対応となっていますが、装着方法が異なるところをみると、どうやらマイクカプセル自体の仕様が新規格に変わっていて、従来のマイクカプセルは使用できないようです。
下の写真は、H6eに新タイプのショットガンマイクを装着したところ。着脱用ボタンの形状が変わっています。
またマイクカプセルの端子を保護するカバーも変更され、取り外したカバーはレコーダー本体に装着できるようになっています。
これで紛失しにくくなり、必要なときにはすぐにカバーを装着できます。
MS方式の録音に本体のみで対応(H4e、H6e)
Essentialシリーズのうち、H4eとH6eの2機種はMS方式の録音に対応しています。
MS方式についての解説は省きます
従来、マイクカプセル対応機種でなおかつMSH-6への交換が必要でしたが、新シリーズでは本体内蔵または付属のX-YマイクのみでMS方式での録音が可能です。
ここから考えて、MS方式対応のマイクカプセルMSH-6に相当する新型は登場しないのではないかと思われます。
実際、サウンドハウスでも在庫僅少になっていますし、ZOOMの製品ページでも関連製品のなかにMSH-6が見当たりません(商品ページ自体はまだ存在しています)。
すでにディスコンで、流通在庫のみになっているものと思われます。
耐音圧はややダウン
Essentialシリーズのマイクは、従来機に比べて耐音圧がやや下がっています(H1のみ同等)。
新機種のスペックは次のとおり。
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H1e - 最大120dB SPL
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H4e - 最大130dB SPL
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H6e - 最大135dB SPL
対して従来機種はこのようになります。
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H1n - 最大120dB SPL
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H4n - 最大140dB SPL
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H6n - 最大136dB SPL
32bit floatに対応したためマイク自体の耐音圧は多少下がっても大丈夫と判断されたのでしょうか。技術に詳しくないのでこれ以上の言及は控えます。
MTRモードは消滅
個人的にいちばんがっかりしたのがここです。
MTRモードが省略され、それに伴って以下の機能も削られました(もちろんマルチトラックでの一発録りはできます)。
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パンチイン/パンチアウト
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バウンス
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メトロノーム
- エフェクター/アンプシミュレーター
従来機はマルチトラックを活かした楽器練習や重ね録りと、複数マイクでの一発録り、両方に一台で対応できるところが魅力だったんですが、Essentialシリーズでは別の機器を用意しなければいけません。
なお、H1eについては、マルチトラックではないものの、簡単に重ね録りができるオーバーダビング機能を継承しています。
入出力とオーディオインターフェイス
最新モデルらしい点としてはUSB端子がType-Cとなりました(従来機はMini-B)。規格そのものはUSB2.0 High Speedのままですが、オーディオデータにとっては充分な速度ということでしょう。
オーディオインターフェイスについては注意が必要で、H4e/H6eの2機種は44.1/48kHzの2段階となります。96や192kHzには対応していません(レコーディングでは96kHzに対応)。量子化ビット数は24bitと32bit floatの2種類で、16bitには対応しません。
またH1eは48kHz、24bitのみとなります。
オーディオインターフェイス機能を備えているため、パソコンに接続すると外部マイクとして利用できます。なお、従来はPC/Macのみ対応でiOS/iPad OSなどには対応していなかったのに比べ、Essentialシリーズはモバイルデバイスにも対応しているのがアドバンテージです。
ただし、リモート会議などでマイク兼スピーカーとして使うには注意が必要です。
内蔵しているスピーカーとマイクの位置が近いため、フィードバックが発生する可能性大です。音声の出力先をPC内蔵スピーカーまたはほかのオーディオデバイスにするなどの対応が必要でしょう。
オーディオ出力端子は従来機を踏襲しており、H6eはヘッドフォン出力とLineアウトが独立していますが、H4eとH1eはともに兼用です。端子はそれぞれΦ3.5mmのステレオミニ。
個人的まとめ - シリーズ名に意味はあるのか?
32bit対応になってUSB Type-Cに変更されたということでモデルチェンジに期待していたんですが、H4eとH6eでマルチトラック関連の機能がばっさり削られてしまったのにはかなり落胆しました。
旧モデルも遠からずラインナップから落ちてしまうと思われるので、従来からの系統はH8しか残らないことになりますが、これもいつまで継続するか疑問です。
一方気になるのはEssentialと銘打たれているという点。
もしかしたら、マルチトラック機能を搭載した、ExpandあるいはExtendといった上位シリーズが控えているのではないかと期待します。
いや、ぜひそうであってほしい
一発録りのレコーディングしか求めていない一般ユーザーにはEssential、音楽制作志向のユーザー向けにはExpand/Extend(仮)という2系統で展開してくれたら最高です。
そうなったらなったで、R4との棲み分けという問題もあるのですが・・・
というわけで今回のEssentialには手を出さずに、見送ろうと思います(ただ、コンパクトなH1e
ポイント
ごく個人的な要望なんですが、H4n Pro BlackをベースにUSB端子をType-Cにして、オーディオインターフェイスをモバイルデバイス対応にブラッシュアップしたような機材があれば充分なんですけど。
Essentialシリーズの特徴
- 32bit float録音でレベル調整が不要
- 外観デザインを一新、ゲイン調整ダイヤルの排除
- マイクカプセルのモデルチェンジ(H6e)
- オーディオI/F機能搭載でUSBマイクとして利用可能
- 楽器練習や楽曲制作向け機能の削除(H1eのみオーバーダビング可能)