今回は分離したギターの信号をアンプシミュレーターに通すための設定を行ないます。
この記事で紹介する設定
- VoiceMeeter Bananaのパッチインサート(センド/リターン)
- Cantabile Liteの入力ポート作成とチャンネル割り当て
- Cantabile Liteの出力ポート作成とチャンネル割り当て
- Cantabile Liteの基本的なルーティング
- アンプシミュレータープラグインの挿入と画面表示トラブル対策
この記事の目次
信号の流れを理解する
前回はYamaha AG03から入力した信号をVoiceMeeter Bananaを使って、マイクとギターに分離し、それをOBS Studioに入力するところまでを検証しました。
ただしギターの信号はアンプを通っていないので、アンプシミュレーターを使って本格的なギターサウンドを出せるようにします。
そのためには、アンプシミュレーターのほかにVSTホストとよばれるアプリケーションが必要です。
オーディオインターフェイスからVoiceMeeter Bananaに入って分離したギターの信号を、いちどVSTホストに渡し、そこでアンプシミュレーターを通して好みのギターサウンドを作れるようにします。
アンプシミュレーターで加工されたギターサウンドはVoiceMeeter Bananaへ戻り、そこから前回同様にOBS Studioへ流れるというルートになります。
fig概念図
ギタープレイヤー的な見方でいうと、VoiceMeeter Bananaにセンド/リターン端子がついて、外部のエフェクターを利用するといった感じになります。
今回アンプシミュレーターにはPositive GridのBIAS FX2 LEを使用しました。
これは通常約40ドルの製品をたまたま先日、無料配布していた際に入手したためです。
プラグインとして使用できるアンプシミュレーターであれば、BIAS FX2以外でも今回紹介する方法で利用できます
2023年6月30日現在もまだ無料配布は続いているようです。
もし終了しても、けっこう頻繁に無料配布を行なっているようなので、慌てずタイミングを狙って入手しましょう。
Cantabile Liteで仮想ボードを組む
VoiceMeeter Bananaの信号を直接BIAS FX2プラグインに入力することはできないので、VSTホストアプリケーションに渡してその中で、BIAS FX2を使用します。
VSTホストはいわば、自由度がめちゃくちゃ高いエフェクターボードのようなもので、その中にアンプシミュレーターとしてBIAS FX2 プラグインをセットするというイメージです。
実際にはアンプシミュレーターだけでなく、イコライザーやサチュレーター、コンプレッサーなどDTMで使うプラグインならなんでも組み込めます。
ギターだけでなく、ボーカルの信号を入力してリバーブやディエッサーをかけるなんてことも可能です。
またルーティングも自在で、ひとつの入力をふたつにわけて処理したりできます。
今回はCantabile SoftwareのCantabile Lite(カンタービレ・ライト)という無料版のアプリケーションを使用します。
VoiceMeeter Bananaでパッチインサートを有効化
Cantabile Liteで仮想のエフェクターボードを組むのに先だって、VoiceMeeter Bananaのほうで準備が必要です。
先ほどのたとえで紹介したように、センド/リターン機能を有効にする必要があります。
そこで、VoiceMeeter Bananaの”System settings / Options...”画面を開いて、いちばん下にある「PATCH INSERT」というスイッチをオンにします。
スイッチはたくさんありますが、今回はボーカルチャンネル用の”IN#1"とギター用の”IN#2”を有効化します。
それぞれLeft、Rightがあるのでクリックしておきましょう。
これでCantabile Liteとの間で信号をやりとりする準備ができました。
Cantabileの入出力設定
ここからいよいよCantabile Liteの設定です。
なおインストール手順などは省きますので、他のWeb情報を参照してください。
まず[Tools]メニューの[Options...]を開いてオーディオの設定を行ないます。
”Options”画面で、”Audio Engine”を選択すると最初は”Audio Driver”が「Null Audio」(オーディオなし)になっています。
ドロップダウンリストを開くとオーディオインターフェイスのドライバなどがずらりと出てきますが、今回は(先ほど設定した)VoiceMeeterのPatch Insert機能を使うので、"ASIO - Voicemeeter Insert Virtual ASIO”を選択します。
これでサンプリング周波数やバッファサイズなどもまとめて設定されます。
マイク入力を確認する
この段階で、音が入るか確認してみました。
オーディオインターフェイスに接続したマイクに向かって喋ると、Cantabile Liteの画面左上にある”Port Activity”というエリアあるレベルメーターのうちMain Microphoneのレベルゲージが反応しています。
ただし、入力があるのは左チャンネルだけで、右は反応していないところを見ると、前回VoiceMeeter Banana上で行なったデュアルモノ化は無効のようです。ひょっとしたらプリフェーダーで処理されているからかもしれません。
詳細な確認は後日やるとして先に進みます。
もういちど”Options”画面を開いてこんどは”Audio Ports”の設定を確認すると次のようになっていました。
マイク入力をデュアルモノ化する
”Main Microphone”の左右チャンネルにそれぞれ、”IN#1 Left”、”IN#1 Right”が割り当てられています。
デフォルトでこのように割り当てられるため、特になにも設定しなくてもマイク音声は入るようです。
ただし、センド側のVoiceMeeter BananaがINPUT1の信号しか出していないので、Cantabile上でも左チャンネルしか入力されません。
そこで、右チャンネルにも左チャンネルと同じ信号を割り振ることで、左右両チャンネルに同じマイク音声が入るようにします(デュアルモノ)。
Assginmentの、”IN#1 Right”になっているところをクリックしてメニューから”IN#1 Left”を選択しました。
これで左右から同じ音が流れるため、結果的に声が真ん中から聞えるようになります。
もういちど”Port Activity”をチェックすると、Main Microphoneのレベルゲージがどちらも反応しています。
これでマイク入力のデュアルモノ化ができました。
ギター入力用の設定を作る
デフォルトでは”Main Microphone”以外の入力ポートがないので、こんどはギター入力用ポートを作ります。
リストの下にある[Add]ボタンでメニューを開いて[Stereo Input Port...]を実行します。
Audio Portsのリストに入力用ポートが追加されたので、LeftとRightにそれぞれ”IN2 Left”と”IN2 Right”を割り当てます。
これはもちろん、VoiceMeeter Banana上でギターをINPUT2に割り当てていたのに合わせたものです。
Port Activityを確認すると新たにギター用のレベルゲージが追加されています。
エレキギターを接続して音を出すとレベルゲージが触れて、左右両チャンネルに音が入っているのが確認できました。
出力用ポートを作る
ここまでで、マイク音声とギター用の入力ポート設定ができたので、次は出力用ポートを作成します。
デフォルトで用意されている”Out: Main Speakers”に出力するとステレオミックスされてしまうので、せっかくVoiceMeeter Bananaで分離した意味がありません。
そこで [Add]ボタンのメニューから[Stereo Output Port...]を実行し、”Out Vocal”と”Out Guitar”のふたつのポートを新たに作成しました。
”Out Vocal”にはLeft、Rightともに”IN#1 Left”を割り当て、”Out Guitar”には"IN#2 Left”と"IN#2 Right"を割り当てます。
もちろんギターの信号もCantabileに入力した時点ではデュアルモノですが、Cantabile上でステレオ効果を設定すれば、最終的にステレオ2ミックスで出力されます。
入出力ポートをつなぐ
Cantabileのメイン画面に戻るとデフォルトで用意されていたポートに加えて、先ほど追加したポートが表示されています。
左側が入力用ポートで、右側が出力用ポートです。
ポートの位置はドラッグで移動(上下方向)できるので見やすいように適宜移動します。
ここでは入力用の”Main Microphone”と出力用の”Out Vocal”、同じく入力用の”Guitar”と出力用の”Out Guitar”が横に並ぶようにしました。
この入力ポートと出力ポートの間をドラッグすると緑色の線でつながります。
これで信号の流れができました。
別の言い方をするとCantabileに入ってきた信号を、VoiceMeeter Bananaに戻せるようになりました。
これで、声を出したりギターを鳴らせばOBS Studioまで信号が入ります。
VSTプラグインのフォルダを確認
いよいよ最終段階です。
入力用ポート”Guitar”と出力用ポート”Out Guitar”の間に、アンプシミュレータープラグインを設定します。
まず、Options画面の”Plugin Options”を開いて、VSTプラグインが入っているフォルダーが登録されているのを確認します。
ここでは”C:\Program Files\Vstplugins”というフォルダーだけが登録されています。
あらかじめ確認したところBIAS FX2のプラグインもこの中に入っているので、この場合特に変更の必要はありませんが、もしお使いのプラグインがこれ以外のフォルダーにインストールされているようだったら、そこも登録しておいてください。
アンプシミュレーターを挿す
メイン画面に戻ったら、中央の空白のところでクリックしてポップアップメニューを開き[Insert Plugin...]を実行します。
プラグインのリストが現れるので、”BIAS FX 2_x64”を選択して[OK]をクリックしましょう。
ちなみにこのプラグイン挿入画面では、プラグインの種類に応じて音源やエフェクトなどのカテゴリー別に表示したり、ベンダー名やタグ、最近使ったプラグインなどで分類表示することもできます。
よく使うプラグインはお気に入りに登録しておくと探しやすくなります。
メイン画面に戻るとBIAS FX 2_x64 1というアイテムが追加されていました。
しかし入力用ポートと繋がっていないのでこのままではギターの音が入りません。
そこで”Out Guitar”につないでいたラインをいちど削除して、間にBIAS FX 2_x64 1が入るようにルーティングをやり直します。
プラグインにはそれぞれ”Stereo In”と”Stereo Out"があるので、そこに接続しましょう。
これでギターの音がBIAS FX 2_x64 1を通って出力されます。
プラグインを正しく表示できないときは
これでCantabileのシグナルチェーンをルーティングできたので、アンプシミュレータープラグインを呼び出して音作りをしようと思ったんですが、プラグイン名の部分(青い背景)をクリックしてもなぜか次の様な小さいバーが現れるだけです。
シミュレーターを通った音は出ているんですが、これでは音色の編集ができません。
そこで調べたところ、Cantabileのオプションで解決できるのがわかりました。
”Options”画面の”General”の中に、「Hi-DPI User Interface:」という項目があります。
どうやらディスプレイの画面解像度に応じて最適なユーザーインターフェイス画面を表示するためのもののようです。
ドロップダウンリストの中から”Enabled & Upscale Plugins”を選択すると、見事にBIAS FX 2本来の画面が表示されました。
これでアンプの選択やエフェクターの操作が可能になり、ギターサウンドを作り込んでいくことができます。
補足:BIAS FX2プラグイン版の機能制限
BIAS FX2のプラグイン版では、デスクトップ版(スタンドアローン版)の機能が一部削られているのがわかりました。
簡単にいうとメトロノームやルーパーの機能が使えません。
これらはむしろCantabile上で動作するプラグインを利用したほうがより高機能で使いやすくなるかもしれません(Cantabile本体にはベーシックなメトロノームが搭載されています)。
生配信の楽しみが数段アップ!
今回はCantabileの使い方を、アンプシミュレーターの設定に絞って紹介しました。
もちろんほかにもいろいろなプラグインを使って複雑なルーティングを作ることができます。
ボーカルだけでいっても、ディエッサーを使った歯擦音の軽減、音程の補正、ノイズ除去、ダブリング、ボーカルエフェクト、イコライザー、エキサイター、コンプレッサー、リバーブなどさまざまな加工ができます。
DAWと連携して自作の曲を流したり、MIDIキーボードと音源をつないで生で歌ったりもできるので音楽系の配信をやりたい方はぜひトライしてみてください。