ところが、ふつうにオーディオインターフェイスから入力すると、マイクとギターがミックスされて別々に処理できなかったり、逆に左右に完全に分離してしまって音楽的じゃなかったりといろいろ問題があります。
そんなときに使える技を紹介します。
この記事で紹介するポイント
- マイク音声とギターの分離
- VoiceMeeter Bananaの基本設定
- PATCH BUSの設定
- ソフトウェア出力用のバス設定
- OBS Studioのマイク設定
この記事の目次
マイク音声とギターの音を分離したい
Yamaha AG03のようなオーディオインターフェイスではチャンネル1をマイク、チャンネル2をギターというように2つのチャンネルで入力を行ないます。
AG03のばあい、パソコンへ送る信号を”DRY CH 1-2G”、”INPUT MIX”、”LOOPBACK”の3つから選べるようになっています。
ふつうに弾き語りするのなら”INPUT MIX”を選んでおくのがいちばんお手軽なんですが、パソコンに入力する段階でふたつがミックスされてしまうので、別々にエフェクト処理することはできません。
そこで”DRY CH 1-2G”を選ぶといちおう別々に入力はできるんですが、パソコン内で自動的にステレオミックスされるので、マイク音声は左から、ギターは右からしか聞えないというなんとも寂しい状態に陥ります。
これをうまく処理して、ボーカルもギターもセンターから聞えつつ、個別にエフェクト処理を掛けられるようにしてみましょう。
鍵は仮想ミキサー
残念ながらWindows本体だけではそういう設定ができないので、アプリケーションの力を借ります。
今回はという無料ソフトを使います(正確には「気に入ったら寄付お願いします」というドネーションウェア)。
画像をご覧いただけばなんとなくわかると思いますが、Windowsパソコンの中に仮想のミキサーを用意して、オーディオインターフェイスから入力した音やパソコンソフトで再生している音を自由にミックスしてしまおうというアプリケーションです。
ミックスした音はオーディオインターフェイスから出力したり、ほかのソフトウェアに送ったりできます。
YouTubeの音源をカラオケにして歌ってみた配信なんかをやるにも便利そうですね。
多機能なぶん使い方が難しいのですが、ここでは細かく説明している余裕がありません。
幸いWeb上には解説記事がいくつもあるので、機能の概要を掴みたいかたはまずそれらを検索してみてください。
当記事では、マイク音声とギターサウンドを分けて扱えるようにするという点のみに絞って解説していきます。
VoiceMeeterには3つのバリエーションがあり、もっともシンプルな無印版でも、当記事の内容はそのまま使えると思います。
最上位版の”Potato”は、より多くのチャンネル設定と組み合わせを選べますが、ふつうのユーザーはミドルグレードの”Banana”が扱いやすいでしょう。
オーディオインターフェイスの準備
VoiceMeeter Bananaの設定に先立って、オーディオインターフェイスの設定を確認します。
ここではYamaha AG03を使った設定例を紹介します。
まずドライバーの設定ツール(Yamaha Steinberg USB Driver)を起動。
「AG06/03」タブに切り替えて、サンプリング周波数を設定。
今回はOBS Studioでの動画配信と統一するように48KHzを選択しました。
Voice Meeter Bananaのデバイス設定確認
Voice Meeter Bananaをインストールするとサウンドデバイスが4つ追加されています。
サウンドコントロールパネルを開くと「再生」タブにVoiceMeeter InputとVoiceMeeter Aux Inputのふたつがあります。
一方「録音」タブにはVoiceMeeter OutputとVoiceMeeter Aux Outputのふたつ。
各デバイスのプロパティを開いて、サンプリングレートが48kHzになっていることを確認しておきます。
ここではVoiceMeeter InputとVoiceMeeter Outputのスクリーンショットを掲載しておきますが、VoiceMeeter Aux InputとVoiceMeeter Aux Outputのほうもチェックしてすべて統一しておきました。
さらに「既定のデバイス」と「既定の通信デバイス」も設定しておきます(右クリックでコンテクストメニューから設定できます)。
デバイス名にAuxがついていないほうを「既定のデバイス」、Auxがついているほうを「既定の通信デバイス」に設定しました。
オーディオインターフェイスの入出力設定
ここからVoiceMeeter Bananaを起動して設定を行ないます。
まず右上のほうにあるHARDWARE OUTPUTのところでA1をクリックして、オーディオインターフェイスを選択します。これが、VoiceMeeter Bananaがデフォルトで使用するオーディオインターフェイスになるので、必ず指定を行ないます。
ポップアップウィンドウに利用可能なデバイス(オーディオインターフェイスのドライバ名)が表示されるので、今回はASIO:Yamaha Steinberg USB ASIOを選択しました。
続いて左上のHARDWARE INPUT1をクリックして、入力に使用するデバイスを選択します。
ここではWDM:(AG06/AG03)となります。
さらにWindowsの音声出力設定でVoiceMeeter Input (VB-Audio VoiceMeeter VAIO)を選択すると、VoiceMeeter Bananaを経由したサウンドをパソコンで再生できるようになります。
AG03のチャンネル設定
これでAG03からの音をVoiceMeeter Banana経由で再生できるようになりました。
ここで、AG03本体の”TO PC"というセレクターをDRY CH 1-2Gに切り替えます。
こうしておくとマイク音声がチャンネル1、ギターがチャンネル2に振り分けられます。
INPUT MIXにしたばあいふたつがミックスされるので、あとあと別のエフェクト処理をすることができません。必ずDRY CH 1-2Gを選択してください。
マイクの声とギターを分離する
ところが、これだけでは充分ではありません。
このままでは、ステレオの左チャンネルがマイク音声、右チャンネルがギターに振り分けられてしまいます。
これを分離して、両方ともセンターに定位するようにします。
右上の[Menu]ボタンをクリックしてシステムメニューを開き、[System Settings / Options...]を選択。
設定画面が現れたらPATCH BUS TO A1 ASIO Outputsの設定を変更します。
IN1~IN3の3つの項目に、それぞれ2つの設定があるので、IN1の左のボックスをクリックして”1"に設定します。
これはHARDWARE INPUT1の入力をカスタマイズして、左チャンネルにチャンネル1を割り当てるという意味になります。
チャンネル1はマイク音声なので、マイクから入力した音だけを扱うことになります。
HARDWARE INPUTの設定を削除
ところが、これでもまだマイク音声のみを分離できたことにはなりません。
というのもHARDWARE INPUT1の割り当てはあくまで”AG03"になっているから、強制的にギターの音も入ってくるんですね。
ここで混乱してしまう人が多いと思いますが、実はこの先に小技があります。
HARDWARE INPUT 1のところをもういちどクリックしてリストを開き、いちばん下にある[ - remove device selection - ]を実行してください。
はい、意味判りませんよね。
せっかく割り当てたインプットデバイスを削除していいんでしょうか・・・?
ところがこれを実行すると、デバイス名が次のように変わります。
A1 ASIO input ( Left: 1)ということは、出力の左チャンネルに入力チャンネル1(マイク音声)を割り当てたという意味になります。
ハードウェア入力のはずが、実際にはVoiceMeeter Banana内部で入力チャンネル2(ギター)を削り、チャンネル1だけを出力できるようになります。
最初は、こんなことができるというのに気付かず相当悩みました。
これでHARDWAE INPUT 1にはマイク音声だけが入ることになります。
とはいってもこのままではステレオの左チャンネルしか声が聞えません。
そこで[mono]ボタンをクリックして、音声をモノラル化します。
これでようやくボーカルが真ん中から聞えるようになりました。
とはいえ、このままではギターの音が入りません。
どうしましょう・・・
ギターの音を割り当てる
というわけで、次はギターからの信号を復活させます。
もういちど”System Settings / Options..."を開いて、こんどはIN 2のふたつのボックスを両方とも"2"に設定します。
これで左右両チャンネルに入力チャンネル2(ギター)の音が入ります。
マイクのときとは違って、ここでは両方にチャンネル2を割り当てているので、形式上はステレオのまま左右のチャンネルに同じ音が流れます。
これは後々、ステレオ効果のあるエフェクト処理を加えることを想定しているためです。
センターに定位した塊感のある音がほしいなら、マイクの設定と同様に片方のチャンネルだけ入力してからモノラル化してもいいと思います。
このように設定することでHARDWARE INPUT 2が自動的に”A1 ASIO input (2+2)”になりました。
これでマイクとギターの分離が無事完成です。
OBS Studio用の出力設定
こうして分離したサウンドを、最後にOBS Studioに出力します。
VoiceMeeter Bananaには、ソフトウエアに信号を送るための仮想のバスがふたつあります。
そこでマイク入力のほうをB1に送り、ギターの音はB2に送るように設定しました。
これでふたつが混じらない別々の状態で、OBS Studioへ送ることができます。
OBS Studio側の音声デバイス設定
最後にOBS Studio側の設定です。
設定画面を開き、「音声」タブで”グローバル音声デバイス”を割り当てます。
マイク音声に”VoiceMeeter Output”、マイク音声2に”VoiceMeeter Aux Output”を割り当てました。
先ほど”B1”へ送ったのが”VoiceMeeter Output”経由でマイク音声に入り、”B2"に送ったほうが”VoiceMeeter Aux Output”経由でマイク音声2に入ることになります。
OBS Studioの音声ミキサーを見ると、”マイク”、”マイク2”のふたつのレベルゲージが表示されています。
これでは判りづらいので、最後にラベル名を書き換えます。
”マイク”のほうは”ボーカルCh”、”マイク2”は”ギターCh”にしておきました。
スイッチ設定で自在に割り当て
以上でマイク音声とギターを分離しつつ、左右両チャンネルのセンターに定位させる設定は完了です。
ふたつを完全に分離したので、ギターの音をアンプシミュレーターに通したり、ボーカルにだけエフェクト処理を掛けられるようになりました。
設定画面を眺めていてチャンネルを分離できそうだというところまでは見当がついたんですが、それだけではうまくいかずにかなり長時間悩んでしまいました。
まさかハードウェアの入力設定をいったん削除すると、ソフトウェア内部で信号を独立できるとは思いもよりませんでした。
ようやく準備が整ったので、次回はいよいよ実際にエフェクト処理を行なうためのツールと設定を紹介したいと思います。
音楽配信をやりたい方の参考になれば幸いです。