一連のキーボード記事を制作するにあたっていろんなサイトや動画を参考にさせていただいていますが、キーの重さに関するユーザーの意見が正反対なことがあるのに気づきました。
典型的なところでは、青軸キーに対する評価で、重いといっているものが多い一方で軽いと表現しているものも少なからずあります。
なぜこのように意見が分かれるのかを考えるために、Cherry MXシリーズの仕様を詳しくチェックしてみました。
メモ
本記事に使用している図はすべてCherry MXの公式サイトに掲載されているものです。リンク先の画像を直接ページに埋め込んでいます。
この記事の目次
評価が分かれる理由を、キースイッチの構造に探る
メカニカルキーボードのインプレッションを見ていると、たいていは採用しているキースイッチを明示してそれをもとに評価しています。
たとえば「青軸は重い」とか「赤軸は軽い」という感じです。ところがよく調べていくと、青軸を軽いと評したり、重いはずの黒軸が高速タイピングに適しているといった評価をしている人も見受けます。
青軸は重め、それとも軽め?
下の動画はCherry MXを使ったキーボードを発売しているセンチュリー社のYouTubeチャンネルで公開しているものです。
この動画では、一般的には軽いとされている赤軸スイッチを「やや重い」に分類し、茶軸は「やや軽い」、青軸を「軽い」に分類しています(7秒あたり)。このため動画のコメントでも「茶軸より赤軸のほうが軽いですよ」という意見が見られます。
この動画で注目したいのは、オープニングからしばらくは「押し上げ圧」について述べている点です。しかし、スイッチ個々のモデル紹介では押下圧に変わっています。
こういった点もユーザーの評価を混乱させている一因かもしれません。
コメントしている視聴者の多くはたぶん押下圧と押し上げ圧を区別していないと思われます。
同じキースイッチなのになぜ評価が分かれるのか?
その一端が上の動画で伺えると感じたので、もっと詳しく知りたくて、メカニカルキースイッチの代表格、ZF Electronics社のCherry MXシリーズから主力となる黒軸、赤軸、茶軸、青軸の4タイプについてスペックを詳しく調べました。
メカニカルキーボード用スイッチの構造を理解する
詳細を紹介するまえに、まずはメカニカルキースイッチの構造を理解しておきましょう。
下の画像は、Cherry MX 赤軸を分解した内部構造です。
上から2つめのパーツ(スイッチングスライド/ステム)が俗に言う軸で、その上にキートップが装着されます。キートップを押すとスイッチングスライド/ステムが下がるときに上から3つめのスイッチ(ゴールドクロスポイントコンタクト)を動かして信号を送ります。
スプリングの強さが押し下げ/押し上げの重さを決定します。
また、スイッチングスライド/ステムの形状が軸の色によって異なり、この形がクリック感に影響します。
メカニカルキースイッチはフルストロークしなくていい
メンブレンタイプキーボードのスイッチはキーをいっぱいに押し込んだところでスイッチが入る(キー入力信号を発生する)のに対し、メカニカルスイッチではキーを押し下げていく途中で信号を発生します。
つまりキーを目いっぱい押し込まなくてもタイプできます。
目いっぱい押さなくてもいいということは、タイピングするのにバネを最大まで縮めるほどの力はいらないということです。
そのため、カタログスペックにはスイッチが入るポイントまたはクリック感が発生するポイント(詳しくは後述)での重さが書かれています。
また同じキーであっても、入力信号が発生したポイントですっと力を抜いて打てる人と、ストロークいっぱいまで力を入れてしまう人では、感じ方が違ってくるはずです。
メカニカルキースイッチの用語
キースイッチの具体的なスペックを読むために必要な用語を確認しておきましょう。
Cherry MXの公式サイトの記述にしたがっているので、Webでのキーボード解説記事に書かれている用語と多少異なる場合があります。
トラベル
キーを押した時の最大移動量です。ストローク量といってもいいでしょう。
Cherry MXシリーズの主要モデルでは4mmです。
押下圧(アクチュエーションフォース)
キーを押すのに必要な重さです。日本のパソコン関係サイトの記事ではグラムを単位としていますが、Cherry MX公式サイトではcNが使われています。
押下圧は「おうかあつ」と呼ばれています。一方で「押上圧」という記述も見られますが「おうじょうあつ」と呼ぶかどうかまではわかりませんでした。
スペックでは押下圧は55cn±25cNのように書かれていることもあります。
この場合プラスマイナスは誤差ではなく、トラベル量0から押し始めるときに必要な重さと、トラベル量最大(フルストローク)のときに必要な重さの幅を表しているようです。
これはのちほどでてくる公式データのチャートから読み取れます。
ただし、モデルによっては初期(トラベル量0)の重さ(イニシャルフォース)と、押下圧の±の値が一致しない場合もあります。
さらにこのダイヤテック社の情報と公式サイト掲載のデータにくい違いがあったり、公式サイト内のデータシートでもスペックの値とチャートにプロットされた位置が異なるように思えるところもあり、これらの点については詳しい理由はわかりません。
オペレーティングポジション(アクチュエーションポイント)
接点が作動し、キー入力の信号が発生する位置です。
Cherry MXシリーズの多くは、トラベル量の中間あたりの2mm前後に設定されています。
国内のWeb記事ではアクチュエーションポイントと説明されていますが、公式データではオペレーティングポジションとなっています。
タクタイルポジション
茶軸や青軸のようにトラベルの途中にクリック感のあるスイッチでは、タクタイルポジションが設けられています。
タクタイル(直訳すると触覚)が強い青軸はクリッキータイプ、控えめな茶軸はタクタイルタイプに分類されます。
タクタイルポイントは、オペレーティングポイントより上にあります。
つまり、キーを押し込むときはタクタイルポイントを通過したあとにオペレーティングポイントでキー入力信号が発生します。
クリック感のあとにキー入力信号が発生するという予告の役割をしているため、キー入力のタイミングがつかみやすく、タイピングのリズムを取りやすくなると考えられます。
青軸も茶軸もプログレッシブレートスプリングではない
茶軸や黒軸などリニア型に分類されるキースイッチには、このタクタイルポジションがありません。
このため押下圧はリニアに変化すると説明されています。この場合リニアとは、押し始めからバネがだんだん重くなっていく過程が直線的で、途中で急に変化することはないということです。
ところが、茶軸や青軸もチャートをみるとオペレーティングポジションより下の押下圧変化はやはり直線的で、曲線的に変化しているわけではありません。
クルマのサスペンション用コイルスプリングでは、縮み始めと縮み終わりで動きの長さ(伸び方/縮み方)が違うプログレッシブレートのばねが使われることがあります。
しかし、メカニカルキーボードスイッチ用では単純な線形ばねのようです。
では、タクタイル型やクリッキー型での重さの変化はどのように出しているかというと、スイッチを押すパーツ、最初に紹介した図のスイッチングスライド/ステムの形状の違いによるものです。
おおまかにいうと、このパーツの形がクリック感の強さや入力信号が発生するまでの間隔といったタイピングの感覚に影響する部分を決定し、バネの強さが押下圧を決定します。
このふたつの組み合わせが、キースイッチのバリエーションとなるようです。
Cherry MXシリーズの主要モデルをチェックする
以上を踏まえた上で、Cherry MXシリーズキーの性格の違いをみていきましょう。
黒軸
黒軸はもっとも古くからあるタイプといわれ、押下圧が直線的に重くなっていくリニアタイプです。この黒軸を基本に他の軸との比較で説明します。
黒軸の動き
次の図は、黒軸の動きを表したアニメーションです。
この図をみると、トラベルの途中で接点スイッチが入るのがよくわかります。
接点スイッチは∩型のような板バネ風です。キーが押されていないときは、スイッチングスライド/ステムから左斜め下へ伸びている棒が接点スイッチを押しているので接触が起こらず、入力信号を発生しません。
キーを押し下げるとスイッチングスライド/ステムが下へ降りることで押されていた板バネが戻り、接点スイッチを押すという構造がわかります。
リニアの理由
黒軸の動きを見ていると、スイッチングスライド/ステムは斜めに伸びた直線的な棒状なので、接点バネは単純な動きです。
使用しているスプリングはもともと線形なので、重さの変化ありますが変化量はほぼ一定(リニア)です(最初と最後を除く中間部分)。
アクチュエーショングラフで重さの変化を確認する
次の図はアクチュエーショングラフといい、黒軸スイッチの重さがトラベル量にしたがってどのように変化するかを示しています。
この図だけだとよくわかりませんが、他の軸と見比べると、赤い線のほうがキーを押し込んだ時の押下圧を表すグラフだとわかります。
横軸の左側が原点でトラベル量が0、つまり押し込んでいない状態。右端がトラベル量最大で4mmとなります。
縦軸はキーを押すのに必要な重さで単位はcNです。
チャートの左右中央、トラベル量2mmの位置にあるオペレーティングポジションが、スイッチが入るポイントと思われます。
黒い方の線は、押し込んだキーが戻るときの押上圧のようです。
こちらはオペレーティングポジションを通過したあと、リセットポジションで少し軽くなってから再びリニアに変化しています。
重さの変化
Cherry MXシリーズのサイトに掲載されているデータシートを元に紹介します。
黒軸のデータを見ると押下圧(オペレーティングフォース)は60cNとなっています。
黒軸のデータシートにはもう少し詳しい情報があるので抜粋します。
- イニシャルフォース:30cN min
- アクチュエーションフォース:60cN±20cN
60cNから20cNを引いた40cNではイニシャルフォースの30cNとは一致しませんが、チャートをみるとトラベル量0付近が少し下がっているので、これのことでしょうか。
(となると±20cNの基準がどこなのかわからないという問題がありますが)
先ほどのチャートの赤い線と見比べると、トラベル量0mmでほぼ30cN、トラベル量4mm(最大ストローク時)で80cNをやや超えるあたりです(最大値のほうは概ねあっているわけです)。
オペレーティングポジションはトラベル中間の2mm、ここでの押下圧は60cNなので、スペックシートにでてくる押下圧はオペレーティングポジションでの重さ、±の値は、トラベル量0と最大のときの差と見てよさそうです。
キーの戻り(押上圧)についてはスペック上の記述がありませんが、チャートを見るかぎり、押上圧が変化するリセットポジションで45cNあたりに見えます。
黒軸の傾向
このあと、黒軸を基準に各スイッチを紹介していくので、以下のポイントを頭に入れておいてください。
- オペレーティングポイントでの重さ:60cN
- トラベル量最大ポイントでの重さ:80cN
- イニシャルとオペレーティングポイントの押下圧の差:30cN
- イニシャルとトラベル量最大ポイントの押下圧の差:50cN
- 重さの変化:ほぼ直線的
トラベル量最大=フルストローク時の重さは約80cNですが、実際にはオペレーティングポイントを通過するとスイッチが入るので、最大の80cNで押す必要は必ずしもありません。
また押下圧は大きめですが、その分押し戻す力(押上圧)も強めです。
押上圧は途中でわずかに軽くなりますが、全体としてはほぼリニア変化します。
赤軸
黒軸と同じくリニア型に分類される赤軸から見ていきましょう。
赤軸は一般的には軽めといわれますが、先ほどあげた動画では(押上圧は)やや重めに分類されています。
赤軸の動き
赤軸の動きを表したアニメーションです。
黒軸と同じように、スイッチの板バネの動きが単純です。これがリニアの理由です。
赤軸のアクチュエーショングラフ
続いてアクチュエーショングラフを見ていきます。
一見黒軸とそっくりですがよく見比べると傾きが若干違います。
トラベル量0で30cNあたり、オペレーティングポジションで45cN、トラベル量最大では約60cNとなっています。
トラベル量最大のところのちょっとした跳ね上がりが、黒軸よりやや大きめです。最後まで押し込んだときに少しだけ力がいることがわかります。
戻り側の傾向も黒軸と同じで、リセットポジションで少し軽くなったあとリニアに変化していきます。
赤軸の重さの変化
チャートからわかるように、押下圧が黒軸に比べて軽めなだけでなく、押下圧の変化自体も少なめです。
赤軸のデータシートからスペックを抜粋します。
- イニシャルフォース:30cN min
- アクチュエーションフォース:45cN±15cN
黒軸と比べるとトラベル量0のとき差はないので、意外にも初期の重さは同じです。しかしトラベル量最大では赤軸のほうが20cN小さい=軽いことになります。
押上圧の変化も黒軸に似ています。リセットポジションでは35cN程度に見えます。
赤軸の傾向
- オペレーティングポイントでの重さ:45cN
- トラベル量最大ポイントでの重さ:60cN
- イニシャルとオペレーティングポイントの押下圧の差:15cN
- イニシャルとトラベル量最大ポイントの押下圧の差:30cN
- 重さの変化:ほぼ直線的
以上から、黒軸に比べると押し込んでいったときの重さの増加が少ないことがわかります。
また赤軸の押下圧の最大値(トラベル量最大)が、黒軸のオペレーティングポジションでの押下圧と同じで、差は15cNです。
つまり赤軸は単純に黒軸を軽くしたわけではなく、ストロークが深くなるほど軽く感じるセッティングになっているのがわかります。
なおトラベル量最大のときチャートが急に跳ね上がっているので、底突きするような打ち方だと意外に軽やかさを感じないかもしれません。
茶軸
続いて中庸な性格でメカニカルキーボード初心者向けといわれる茶軸です。
茶軸の動き
茶軸のスイッチングスライド/ステムは、黒軸/赤軸のような直線的な形ではなく、途中で角度が変わり、さらに少し波打つような形になっています。
このためスイッチングの板バネも単純な動きではなく、大きく押されたあとちょっと戻り、また少し押すといった動きをします。
この大きな動きがクリック感になっているようです。
茶軸のアクチュエーショングラフ
アクチュエーショングラフを見ると、オペレーティングポイントから先(トラベル量が大きくなる部分)では直線的に増加しています。
しかしオペレーティングポジションより前のポイントでは、トラベル量1mmあたりから急に立ち上がって、1.2mmあたりでいったんピークを迎えます。ここがクリック感を感じるタクタイルポジションです。
そのあと押下圧はいちど下がってから、オペレーティングポイントに向かってまた上がっていきます。
タクタイルポイントとオペレーティングポイントの間隔はやや広めです。
キーの戻り側はオペレーティングポジションを通過したあと急にいちど軽くなったあと、少し重さを戻してまた下がるというチャートになっています。
赤軸に比べるとキーを押し上げる力がふっと抜けるような感じでしょう。
茶軸の重さの変化
茶軸のデータシートからのスペック抜粋です。
- イニシャルフォース:30cN min
- アクチュエーションフォース:45cN±20cN
- プレッシャーポイントフォース:55cN±25cN
黒軸、赤軸になかったプレッシャーポイントフォースというデータが登場しました。
上のチャートと見比べると、アクチュエーションフォースはオペレーティングポイントを基準にした値で、プレッシャーポイントフォースはタクタイルポジションでの値だとわかります。
茶軸の押下圧スペックは55cNと書かれていることが多いので、一般的なスペックはタクタイルポジションを基準に表記されているということです。
トラベル量0では30cNなので黒軸・赤軸と同じ。トラベル量最大では約60cNなので赤軸と同じです。
ただし、赤軸に見られるトラベル量最大付近の跳ね上がりが茶軸ではほとんどありません。
ここでわからないのが、オペレーティングポジションを基準にした40cN+20cNはともかくタクタイルポジション基準の55cN+25cN=80cNがチャート上のどこにも出ていない(ように見える)ことです。
またトラベル量最大ポイントよりは、タクタイルポジションのほうが少し押下圧が低いことになります。
戻り側の押上圧はリセットポジションで40cN程度と黒より軽く赤よりは重めです。
そのあと急に圧が下がっていちど20cNまで落ちます。
茶軸の傾向
- オペレーティングポイントでの重さ:45cN
- トラベル量最大ポイントでの重さ:60cN
- イニシャルとオペレーティングポイントの押下圧の差:15cN
- タクタイルとオペレーティングポジションの押下圧の差:10cN
- イニシャルとトラベル量最大ポイントの押下圧の差:30cN
- 重さの変化:緩やかに波打つカーブ
トラベル量0のときの重さも、トラベル量0と最大のときの押下圧の差も赤軸とほとんど同じなので、タッチの違いはもっぱらタクタイルポイントを作り出すスイッチングスライド/ステムの形状とそれに由来するタクタイルポイントからオペレーティングポイント間の変化ということになります。
センチュリーの動画で茶軸は赤軸より軽めに分類されているのは、戻る途中で一回急に軽くなるからかもしれません。
青軸
一般的には最も重いといわれることが多く、しっかりした入力感を求める人に好まれるのが青軸です。
青軸の動き
青軸は茶軸に比べてステムの形状がさらに複雑で、板バネの動きも、バチンと弾けるような強めのアクションになります。
これがクリッキーと呼ばれる理由でしょう。
青軸のアクチュエーショングラフ
トラベル量0では40cNよりやや下、トラベル量最大ではほぼ60cNです。
タクタイルポジションが、茶軸より遅めのトラベル量1.7mmあたりにあり、オペレーティングポジションも2.2mmとほかの軸より深い位置にあります。
ただし、タクタイルポジションとオペレーティングポジションとの間隔は短めなので、押下圧の変化が急に起きることがわかります。
キーの戻り側はさらに特徴的です。タクタイルポジションとちょうど同じあたりで急激に力が下がり、それが0.5mm近く続きます。
青軸の重さの変化
チャートによるとトラベル量0での押下圧は40cN弱で、立ち上がりでの変化がかなりあります。トラベル量最大ポイントの値は60cNで意外にも赤軸や茶軸とかわりません。黒軸よりは20cNも低い値です。
ここで青軸のデータシートのスペック抜粋です。
- イニシャルフォース:25cN min
- アクチュエーションフォース:50±15cN
- プレッシャーポイントフォース:60cN±15cN
なんとスペック上ではトラベル量0のイニシャルフォースが25cNとなっています。
ほんの一瞬ですが、25cNなら黒、赤、茶のどれよりも軽いことになります。
一方オペレーティングポジションでの重さであるアクチュエーションフォースは50cN。
黒軸より軽く、赤軸、茶軸より重くなります。
もうひとつの特徴はタクタイルポジションとトラベル量最大ポイントの押下圧がともに60cNで最大という点です。
また、茶軸ではタクタイルポイントでいったん上がった押下圧がその後、一瞬前よりもやや下がってからまた上がるウェーブを描いていました。しかし青軸ではオペレーティングポジションへ向かって直線的に下がる形になっています。
トラベル量0と最大での押下圧の差は茶軸と同じ20cNで、黒軸よりは差が少なくなっています。
戻り側は1.7mmのあたりで急に押上圧が下がって、1.5mm~1mmあたりまで20cNが続きます。トラベル量がこの付近での20cNは4タイプの中では極端に軽い値です。その後、一瞬40cNまで戻してからトラベル量0で20cNに戻ります。
リセットポジションでの値はチャート上では25cNあたりに見えます。
青軸の傾向
- オペレーティングポイントでの重さ:50cN
- トラベル量最大ポイントでの重さ:60cN
- イニシャルとオペレーティングポイントの押下圧の差:25cN
- タクタイルとオペレーティングポジションの押下圧の差:10cN
- イニシャルとトラベル量最大ポイントの押下圧の差:35cN
- 重さの変化:短い間隔で急に波打つカーブ
イニシャルの25cNがほんの一瞬だけ極端に軽く、その直後急に40cNまで跳ね上がります。この値は、イニシャル付近としては4つのキータイプの中では最大です。つまり、いきなり急に重さが増します。
さらにそこから押下圧がピークになるタクタイルポジションまでは1.7mm程度。イニシャルとの押下圧差は35cNなので、黒軸より大きな値です。
つまりトラベル開始からタクタイルポジションまでの短時間で非常に急激な変化がおきます。これが一般に重いと感じる人が多い理由ではないでしょうか。
一方戻り側は途中で急に押上圧(反発力)が減ります。つまり押すときは比較的重めなのに、戻りは軽くなるセッティングです。
まとめると青軸は押下圧ではキーが重く、押上圧のほうはキーが軽いということです。ほかの軸も同じ傾向ではありますが、青軸はそれが極端でわかりやすくなっています。
これがユーザーによって感じ方が変わる原因でしょう。
ちなみに、押上圧(反発)が弱いということは、次のキーに移りやすいはずです。打鍵の力が強く、トラベル初期の重さを気にしない人なら高速タイピングにも向いているのではないでしょうか。
主力モデル以外
主力4モデル以外にも、簡単に触れておきましょう。
静音赤軸(ピンク軸)
トラベル3.7mm、オペレーティングポジションが1.9mmとストロークが浅めになっています。押下圧、押上圧などの数値は赤軸と同じです。
静音黒軸
トラベル37mm、オペレーティングポジションが1.9mmとストロークが浅めになっています。押下圧、押上圧などの数値は黒軸と同じです。
軸のカラーは濃い目のグレーです。
スピードシルバー(銀軸)
トラベル3.4mm、オペレーティングポジションが1.2mmの超ショートストロークで、高速タイピング向きの仕様です。
軸のカラーはシルバーというよりライトグレーっぽい感じです。
イニシャルフォース:30cN min、アクチュエーションフォース:45cN±15cNで赤軸に近い仕様ですが、最大ストローク付近が70cN前後と大きめの値になっているのが特徴です。
どこを好むかで評価も変わる
以上、Cherry MXシリーズの特徴をスペックで確認してみました。
まとめると、次のようになります。
黒軸・赤軸(リニアタイプ)
- 黒軸・赤軸はトラベル中の重さの変化が一定している
- トラベル初期の重さは同じだが、増加量は赤軸のほうが少ないため軽く感じる
茶軸・青軸(タクタイルタイプ・クリッキータイプ)
- 茶軸・青軸は、接点より上にクリック感を感じるポイント(タクタイルポジション)があり、キー入力のタイミングがつかみやすい
茶軸
- タクタイルポジションからオペレーティングポジションまでの間隔が長めで、重さの変化は比較的おだやかな波型
- 戻り側の途中で一瞬押し上げ圧が下がる
青軸
- トラベル初期からタクタイルポジションまでの重さの変化がいちばん大きく、急に重さを感じる
- タクタイルポジションからオペレーティングポジションの間隔が茶軸に比べて狭く、重さの変化が直線的
- 戻り側の途中で、急激に押し上げ圧が下がる
重さの評価が割れるのは、押下圧と押し上げ圧を混同しているからでは?
最初に紹介した動画のように、キースイッチに対する評価が人それぞれで分かれるのは、押下圧と押し上げ圧の違いを意識していない、あるいはタイピング中に感知できないからからではないかと考えます。
特に、タッチが特徴的な青軸については、初期の力の変化が大きい点から「重い」と感じる人が多い一方で、そもそも打鍵する力が強い人はそれをあまり気にしていないのではないでしょうか。
さらに押し上げ圧(反発力)がふっと抜けるのを好む人は、高速タイピングもできるという評価につながっていると思われます。
ゲーム用とではテキスト入力に比べて打鍵そのものが強くなりがちだし、数十分も連続して一定のリズムでタイピングすることはなさそうです。またプレイ後に疲労感が残っても、むしろ爽快感と感じているかもしれません。
そういった点を総合して、比較的青軸が好まれるのではないかと考えています。
キースイッチの性格をキーボード選びの基準に
トラベル途中の重さの変化が一定な黒軸、赤軸は、はじめてメカニカルキーボードを使う人にとってはおそらく入力信号を発生するポイントがわかりにくいはずで、慣れが必要かもしれません。
そういう意味では、メカニカルキーボードに慣れた人向けでしょう。
一方、タクタイルポジションが入力の予告となる茶軸や青軸は、入力のタイミングが比較的つかみやすいはずです。その中でも変化が穏やかで、重さも軽めな茶軸がメカニカルキーボード入門者向けといわれる理由がよくわかりました。
仕事で長時間タイピングする人ならクリック感がなく押下圧が低めな赤軸を基準にするといいでしょう。一方、女性でもたとえば長年ピアノを演奏してきて、キーを押す力がある人なら黒軸でもいいかもしれません。
自分なりの基準を決めたら、あとはショップで実際のタッチを確認して好みに合うキーボードを探してみてください。