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舞台撮影に腕を奮えるビデオカメラ選び - 選択基準篇
舞台撮影のためのビデオカメラ選びを頼まれたので、どういう基準で選んだのか、そこらへんの過程を記事にして紹介することにしました。 カタログ、スペックを比較する前の基本的な方針として参考にし ...
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今回は、その続きとして実際に選んだ機種を紹介します。
なお、実機を使った上での優劣を決めるわけではありません。
あくまでカタログスペックや製品仕様をもとに特徴を洗い出し、用途にあった製品を見定めるのが狙いですからその点はご了承ください。
この記事の目次
結論はキヤノン XF400
さっそくですが、今回選んだ機種はキヤノンのXF400というカメラです。
2020年1月現在、キヤノンの業務用ビデオカメラは、下からXA40、XA55、XF400、XF405、XF705というラインナップがあり、ちょうどその中間にあたります。
価格は実売で税込み25万円ほどでした。
参考
なお、キヤノンにはほかにXC10とXC15という機種がありますが、このふたつは在庫僅少となっていて早晩ディスコン(販売終了)になると考えられます。
新型機のほうがAF性能が高いという評判なのでこの2機種は当初から除外しました。
比較したライバルは6機種
今回のカメラ選びで比較したのは次のような機種です。まず実売30万円以下からセレクトしました。
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パナソニック AG-UX90
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パナソニック AG-AC30
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ソニー HXR-NX80
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JVC GY-HM250
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JVC GY-HM175
30万を基準にした理由
ちなみに予算50万円弱なのに対してカメラを30万円に抑えたのは、できるだけよい三脚がほしかったので、その分を見越してです。
4K 1型センサーを基準にする
このなかで、次の3機種はまずセンサーが1型でないという点でふるい落としました。
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パナソニック AG-AC30(1/3.1型センサー)
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JVC GY-HM250(1/2.3型センサー)
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JVC GY-HM175(1/2.3型センサー)
実際の画質をチェックしたわけではないんですが、依頼者のほうが「予算の範囲内でできるだけよいものを」という意向だったことと、室内での舞台・イベント撮影が目的ということでなるべく暗所性能が高そうな大型センサー搭載機に絞っています。
4Kはいまどき当然のスペックということですが、UHDサイズの画面からFHDに出力することで、ズームやパンなどのカメラワークを編集ソフト上で擬似的に処理できます。
撮影時のカメラワーク失敗を気にせず、固定で撮影するのを想定しています。
というわけで、あくまで単純なふるい落とし。上記3機種の性能・画質が悪いというわけではないのでその点はご理解ください。
XF400を選んだ6つのポイント
残る3機種との比較でキヤノンのXF400を選んだポイント(センサー以外)は次の6つです。
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高速デュアルピクセルCMOS AF
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15倍ズーム
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光学5軸手ぶれ補正
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WDR対応
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外部レコーダーによる4:2:2 10bit収録
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4chオーディオ
なお、このあと掲載する画像はすべて各メーカーの製品公式ページから借用しています。
高速デュアルピクセルCMOS AF
4K撮影ではピントがシビアになります。
ピントが甘いとせっかくの4K画質が活かせないといわれる中、カメラに搭載したモニターでは小さすぎてマニュアルフォーカスでのピント確認が難しいようです。
そこで最新機種はどれもAF性能が向上しているようですが、その中でもXF400はAFの機能が充実しているので、長くなりますが紹介します。
ソニーやパナソニックのカメラにはこういう機能面のアピールがあまりなかったので、早くもこの段階から一気にキヤノンに傾きました。
舞台に便利、顔優先AFとフェイスオンリーAF
顔優先AFはただの顔認識ではなく、人物の顔を認識したときだけAFを働かせる機能です。
あらかじめ指定しておいたAF枠にフォーカスを合わせておいて、顔を認識するとそちらにピントを合わせます。画面内に顔がなくなるとまた元のAF枠へピントが戻ります。
フェイスオンリーAFは顔が認識できなくなるとオートフォーカスを停止してしまい、また顔を認識するとAFが動くという機能です。
こういう機能があると、舞台から一時的に演者が消えたときにオートフォーカスがあっちこっち動いてピントがぼけまくるという見苦しいことがなくなるので本当に期待大です。
AF速度とレスポンスを調整できる
オートフォーカスのスピードとレスポンスをそれぞれ3段階で調整できます。
つまり高速なAFをあえてわざとゆっくり動かすことができます。
ニュース映像とかなら瞬時にAFが動いたほうがいいんですが、舞台撮影や映画ではあまり俊敏に動くと落ち着かない映像になってしまいます。
むしろ映画やドラマによくある、対象Aから対象Bへじんわりピントを移動するほうが、舞台にはあっていると思います。
もちろん同じステージ撮影といっても音楽ライブなどでは、クイックにキュンキュンとAFが効いた方がいいでしょうね。
そのあたりを調節できるというのがとても魅力に感じました。
ちなみにパナソニックのAG-UX90にも同様のカスタマイズ機能があるようです。
マニュアルフォーカスを助けてくれる機能
実はオートフォーカスだけでなくマニュアルフォーカスのほうでも便利そうな、いや間違いなく便利な機能がついています。
ひとつはAFブーストMF。これは大まかにマニュアルフォーカスで合わせておいて最後のところだけAFを効かせるというもの。
もうひとつはデュアルピクセルフォーカスガイド。こちらはマニュアルフォーカス操作を助けてくれる表示機能です。
ピントがあったときに教えてくれるだけでなく、いわゆる前ピンか後ピンかまでわかります。
フォーカスをどっちに動かせばいいかすぐに判断できるから、操作を迷うことがありません。
このフォーカスガイド、マニュアルフォーカスの一眼レフカメラにあったスプリットイメージフォーカシングスクリーンみたいな使い勝手になっているんじゃないかと思います。
ステージ撮影だとあまり使わないと思いますが、こういうところまで気を遣って作られているのは気持ちがいいし、感心します。
15倍ズームで望遠側に強く、ワイド側もけっこうイケる
最近動画撮影だとデジタル一眼レフやミラーレス一眼を使っている人も多いと思いますが、今回の機種選定では最初から除外しています。
というのもワイドからどアップまでズーム倍率の高いレンズがぜったいに必要だからです。
舞台が始まってしまったら途中でレンズ交換なんかできませんから。
そこでスペックを比較しました。
機種 | ズーム倍率 | 焦点距離(35mm版換算) |
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パナソニック AG-UX90 | 光学15倍/超解像25倍 | 24.5~367.5mm |
ソニー PXW-NX80 | 光学12倍/超解像24倍 | 29.0~348.0mm |
キヤノン XF400 | 光学15倍/超解像30倍 | 25.5~382.5mm |
ご覧のようにソニー NX80の12倍に比べると、キヤノンXF400とパナソニックUX90はどちらも15倍と有利です。
特に望遠側はUX90より優っているので、XF400のほうがよりアップで撮れます。
広角側は逆にUX90が優位なので、なるべく近寄ってかつワイドに撮りたいならUX90になりますね。
でもソニー NX80の広角側29mmに比べれば、XF400の25.5mmも悪くありません。
ステージにそんなに近寄って撮れるわけではないので、充分でしょう。
ちなみに超解像というのは4Kセンサーの画素数をいかして、FHDで撮るときに画像劣化なくズームできる機能です。キヤノン製品ではアドバンストズームという名称になります。
光学5軸手ぶれ補正
ステージ撮影では基本的には三脚に据え付けるので手ぶれ補正の必要はありませんが、ステージ裏の記録撮影とかイベント撮影にかり出された場合を考えると、無視できない機能です。
その点パナソニックとキヤノンはともに光学5軸手ぶれ補正があり、安心です。
いっぽう、ソニーは民生機ではご自慢の空間光学手ぶれ補正があるのに、なぜか業務機には投入していません。長期の信頼性・耐久性ではまだまだプロの業務に耐えるレベルにないのかという気もします。
明暗差に強いワイドダイナミックレンジ(WDR)
照明による明暗差が激しいステージ撮影では、白飛び・黒つぶれを抑えられるWDR(ワイドダイナミックレンジ)での撮影はぜひ欲しい機能です。
この機能については、キヤノン、ソニー、パナソニック、いずれのカメラも同様の機能を搭載しています。
またソニーのNX-80についてはより高度なLOG収録が可能ですから、もっと高度でクリエイティブな映像編集にも対応できます。
パナソニックのUX-90もフィルムライクやシネライクなど8種類のガンマカーブを選べます。
それに比べるとキヤノンのXF400はWDRが一種だけでスペック上は見劣りしています。
しかし、今回の選定ではあくまで舞台撮影用だから、編集上カンタンに扱える方が望ましく、LOG収録までは必要ありません。
そこでXF400で充分と判断しました。
外部レコーダーによる4:2:2 10bit収録
色の編集(カラーコレクション/カラーグレーディング)については、むしろ外部レコーダーでの収録ができることに期待しました。
XF400ではHDMI経由で外部のレコーダーに映像を録画できます。
しかもこの場合、YCbCr 4:2:2 10bitでの収録が可能です(外部レコーダーでの録画のみの場合)。カメラ本体(SDカード)での録画だと4:2:0 8bitなので、それに比べはるかに色情報が豊かになります。
色の編集が必要な場合、この色情報の豊かさでカバーできるでしょう。
また、撮影した生(未編集)データを映像資産として長く保存するためにもこちらのほうが魅力でした。
実際使ってわかったこと
実際にカメラの設定をチェックしたところ、4:2:2 10bit出力できるのはフルHDのときだけだということがわかりました。
4K(UHD)での出力は59.94P 4:2:0 8bitと29.97P 4:2:2 8bitになります。
またフレームレートは59.94fpsか29.97fpsで、23.978fpsは選択できません。
2020年2/16日補足
舞台の臨場感を4Ch オーディオで記録
もちろんビデオカメラの本体に内蔵マイクがありますが、今回ピックアップしたカメラはどれも業務機なので、さらにXLR端子(別名キャノン端子)による音声入力が可能です。
キャノン端子(メーカーのキヤノンとは関係ありません)は、ステレオミニプラグ端子に比べるとノイズが少なく音質がいい、しっかりロックされるので不用意に抜ける心配がない、といったメリットがあり、プロの音響の世界で広く使われています。
そしてXF400では、内蔵マイクとキャノン端子、さらにステレオミニジャックの3系統の入力を使って4チャンネルの録音が可能です。
しかもその組み合わせは、内蔵マイク+キャノン端子、内蔵マイク+ステレオミニジャック、キャノン端子+ステレオミニジャックと自由に選べます。
4チャンネル収録のどこが凄いかというと、ステージのマイクで演者の声を収録しながら、同時に観客の笑い声やどよめき、拍手などもクリアに拾えるところ。
すべてがごっちゃになったホール内の音を録音するのではなく、ステージの上手/下手、観客席の左右両側とそれぞれマイクを立ててクリアな音を記録できます。
この4ch録音はこのクラスのビデオカメラでは、XF400にしかないアドバンテージでした。
比較機種の印象
もちろん他の機種にもそれぞれいいところがあります。
三連リングが魅力だけど大きくて重いUX-90
特にパナソニックのUX-90は、本格的な業務機ではおなじみのズーム/フォーカス/アイリス(絞り)の3連リングがあり本格的なマニュアル撮影には最高です。
これに対してXF400やNX-90はマニュアル操作リングはひとつだけで、リングの機能を設定で切り替えるようになっています。
UX-90はいかにもプロカメラマンっぽくてそそるのですが、今回の用途、選定基準だと実質的に不要です。
ピントは基本AF任せだし、絞りもいちど露出を決めてしまえば上演中は固定なので、ズームリングがあれば充分です。
しかも、4K収録からFHDへのプルダウン前提に、編集上で擬似的にズームやパンをやってしまおうと考えているので、実際にはズームもあまり使わないつもりです。
というわけで3連リング搭載は魅力だけど、そのぶん大柄で重くなるUX-90より、XF400の方が実用的と判断しました。
パナソニック AG-UX90の実売価格をフジヤエービックでチェック
ズームや手ぶれ補正が弱いNX-80
個人的には、ソニーのNX-80でLOG収録できるところに魅力を感じます。カラーグレーディングで好みのルックに仕上げるとか、とてもそそります。映像に凝りたいクリエイター向きではないかと思います。
でも今回は、あくまで依頼者である友人の希望に添ったカメラ選び。舞台をキレイに収録できて編集の手間もかからないWDR収録ができれば充分です。
そのほかにはズームが12倍しかないのも気になります。編集での疑似ズームを考えているとはいえ、イベント撮影にかり出されることなども想定するとやはり高倍率が欲しい。
ほかにも光学5軸手ぶれ補正ではないところ、AFの性能はともかく機能面で目立った特徴がないところなどが気になりました。
ソニー HXR NX-80の実売価格をフジヤエービックでチェック
実用性に徹した感のあるXF400
S-LOG収録ができるNX-80、ガンマカーブが8つも選べるUX-90に比べると、ワイドダイナミックレンジがひとつだけのXF400は、クリエイターを刺激するようなポイントではやや弱いかなと思います。
そのかわりに、顔優先AFやフェイスオンリーAF、マニュアルフォーカスアシストなど実用的な機能に集中して作られているように感じます。
NX-80が映像クリエイター向きなら、XF400はニュース制作や番組収録向きのカメラというところでしょうか。
また、4chオーディオ入力は同クラスでは類をみない機能で、強烈な魅力があります。
地味なところでは絞り羽根が9枚、フィルター径が58mmとUX-90(67mm)やNX-80(62mm)に比べてやや小ぶり(当然フィルターの価格が抑えられる)といった点もメリットです。
その他の機能
ほかにも評価すべきポイントはありますが、
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リレー録画や同時録画ができるデュアルメモリカードスロット
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内蔵NDフィルター
などは、このクラスの業務用カメラともなると基本的なスペックとして押えてあるので、差はありません。
ラインナップ上でのコストパフォーマンスは?
キヤノンには上にXF405、下にXA55という機種があります。
XF405は直接の上位機種
XF405はXF400の兄弟機で、性能/機能はほとんど同じです。
大きな違いはXF405には3G-SDI端子があること。SDI端子は映像、音、タイムコードなどの信号を一本で送れるケーブルで、コネクタにロック機能を備え抜けにくくなっています。
3GはFHD対応で、フルハイビジョンまでの映像を出力できます。言い換えると4K出力には対応しておらず、4K出力したければHDMI(抜けやすい)を使います。
つまりケーブル接続でなおかつ動き回るような撮影ではコネクタが抜けにくいSDI端子が重要ですが、三脚に据えての移動しない撮影だとあまり意味がありません。
それでいて実売価格はXF400より10万円以上高くなってしまいます。
用途で選べるXF400とXA55
XA55もスペック的にはXF400に酷似しています。
センサーやレンズ仕様はもちろん、顔優先AFやフェイスオンリーAFも同じです。
4chオーディオも対応していますが、XLR端子を使うためのハンドルが別売なので本体のみだと2chになります。
それでいて実売価格はXF400に近く、別売ハンドルは3万5000円するのでハンドルまで含めるとむしろXF400より割高です。
XF400との違いはどこにあるのかというと、XA55は3G-SDI端子搭載という点です。
つまり、XLR(キャノン)端子搭載でオーディオ重視ならXF400を、ライブ(ストリーミング)配信などでSDIケーブル接続を考慮するならXA55単体で、という選択が可能です。
自分なりに機材選びの判断基準ができた
以上のような情報を自分なりに整理した結果、今回は舞台撮影用ビデオカメラにキヤノンのXF400を選定しました。
冒頭でも述べたとおり、この記事の主旨は機種の優劣をつけることではなく、あくまで依頼者の要望にあった機材を選択するための判断をどのように進めたかを記録し、紹介することです。
なにしろ業務機の経験どころか知識にも乏しかったので、とりあえず判断の基準を固めるのを優先しました。
この判断がよかったかどうかは、今後実機を使ってみて、レポートしたいと思います。
もしこの記事が、いまビデオ機材の選定で悩んでいる方の参考になれば幸いです。
ぜひあなたの目的、造りたい作品にあったビデオカメラを選んでください。