舞台撮影のためのビデオカメラ選びを頼まれたので、どういう基準で選んだのか、そこらへんの過程を記事にして紹介することにしました。
カタログ、スペックを比較する前の基本的な方針として参考にしてください。
なお、あくまでアマチュアの視点ですから、その点はご承知おきください。
そもそもハンディカムへの不満が
ことの起こりは、地元で市民劇団みたいなことをやっている古くからの友人の依頼です。
長期の目標に向かってお芝居好きのシロウトを集めながら少しずつ公演を行っているんですが、そいつに記録用映像の撮影、編集、DVD化を頼まれました。
そこで私物のハンディカムを使って撮影したんですが、次のような3つの不満が出てきました。
ハンディカム、3つの不満
- オートフォーカス
- ホワイトバランス
- そもそも画質がいまひとつ
これが主な不満3つです。
ほかにもズーム倍率がもっとあったら、とか希望はありますが基本的な画質が良ければ電子ズームで補うこともできるし、基本はカメラ一台の固定撮影で、カメラワークはあまり求められていなかったんで重要度としてはたいしたことありません。
ひょうたんから駒、グチからでた予算
それに対して、上の3つはどうにもならんと感じたので、申し訳ないけどDVDの仕上がりにあまり期待しないでほしい、業務用ビデオカメラがあればなぁとグチをこぼしたところ、予算をかき集めてくれることになりました。
そして、確保できた金額を聞いたらびっくり。
ロワーミドルクラスとはいえしっかりした業務用ビデオに加えて、三脚その他機材まで手が届く金額です。
しかも、機材選定までまかせてもらえることになりました。
今後も撮影・編集の依頼を受けることになるので、自分が使うカメラとして機材を選ぶことになりました。
もうウキウキです!
これから機材選びの話をしようと思うんですが、その前に、先ほどあげた不満点をもうちょっと掘り下げて解説します。
具体的になにが不満で、なにを基準に機材を選んだかがわかるとあなたが自分のカメラを選ぶときの参考になるんじゃないかと思います。
そもそもの問題はマニュアル操作が中途半端なこと
最初に使った私物カメラは2014年頃に買った家庭用のミドルグレードです。
マニュアル撮影が可能なことと、フィルター用ネジがついていることを基準に選びました。
といっても、ボディの隅っこに小さなダイアルがひとつあって、絞りかフォーカスのどちらかに切り替えて操作する程度のものですが、とりあえずマニュアル撮影ができることになっています。
ところが実際に使ってみると、ほとんど役に立たんといっていいくらいにひどい機能制限があったんです。
オートフォーカスの落とし穴
この機種には当時、目玉となった機能がいくつかあります。
そのひとつが顔認識AF。
舞台撮影だから、出演者の顔にフォーカスが合わないことには話になりません。
できればマニュアルフォーカスでバッチリ合わせてやりたいところですが、コチラも撮影のシロウトだし、そもそもカメラのちっちゃいダイアルと、小型のモニターでは正確なピント合わせなんか不可能。
そこで、マニュアル機能重視ではあるんですが、フォーカスだけはオートにまかせることにしました。
頼みの綱は顔認識AFです。テスト撮影でも舞台上の演者の顔を認識してピントを合わせてくれるんでAFまかせで問題ないと思っていました。
でも、これが実際にはうまく行かなかったんです。その理由はもうひとつの問題点を紹介したあとに説明します。
ホワイトバランスはマニュアルで
フォーカスはオートにしたわけですが、舞台撮影の場合、残るふたつ、つまり露出とホワイトバランスは絶対にマニュアルがいいと思っています。
特にホワイトバランスです。
舞台撮影では、ステージ全体を写す引きの画と演者に寄ったアップの画では画面全体の色合いが違ってきます。
演者の衣装や背後にある幕、小道具の色などが、映る範囲でそのつど変わるからです。
さらに、ステージ照明の色がかわったり、ピンスポットだけ当たってそれ以外は暗くなったりもします。
するとオートホワイトバランスでは、場面によって全体の色味がころころ変り、ときにはズームアップやズームダウン中に色が変わったりします。
これはとってもカッコ悪いし、見苦しい。
だから演劇の撮影にマニュアルホワイトバランスは必須だと思います。
念のためいっておくと、同じステージ撮影でもピアノの発表会とかコーラスのようなものなら途中で大きく照明が変わったりしないでしょうから、オートホワイトバランスでも問題ないんじゃないでしょうか。
露出もできればマニュアルがいい
もうひとつの要素は露出です。これは細かくいうとシャッター速度と絞りに分けられます。さらに状況次第では、撮影感度が変わってくる場合もあります。
ホワイトバランスのところでも触れたように、舞台撮影では照明がいろいろ変化します。
そのときに露出がオートだと撮影した映像の明るさが変わることになります。
暗く照明を落とした場面でカメラの絞りが変わって、本当は暗く表現したいところが明るくなりすぎたり、感度が上がったせいで画質の悪いざらざらノイズだらけになったりします。
そんなことのないように露出も固定で撮りたいんです。
もっと細かいことをいうと、まずシャッター速度を固定にすることで動きの滑らかさを一定にし、そのうえで適切な絞りを選んで露出を決めます。もちろん撮影感度も固定です。
私物のハンディカムはマニュアル機能に制限があった
さて、このようにお芝居の撮影ではマニュアル操作が絶対に有利と思っているわけですが、では、なぜ私物のハンディカムがダメだったのかをお話しします。
実はこのビデオカメラ、いろんな特徴・機能を使えるのはフルオート撮影のときだけというひどい制限があったんです。
特に重要なところでは、ホワイトバランスをマニュアル(固定)撮影にすると顔認識AFが効かなくなり、ふつうのオートフォーカスになってしまいました。
ふつうのオートフォーカスだとだめなのは、コントラストの高いところにフォーカスを合わせてしまうからです。
照明の具合によっては、演者の顔にピントが合いにくくなったりするんですが、そんなときコントラストがはっきりしている小道具のほうへピントが飛んでいったりします。
舞台の中央を挟んで両側に演者がいるとき、中央の空っぽの空間、つまり背景にピントが合ってしまうこともあります。
とにかく、顔認識できなくなることでピントがあっちこっちに移動する頻度が増えて、その分だけ映像として見づらくなってしまうわけです。
本業のプロカメラマンはそんなところを、マニュアル操作でバッチリ決めるわけですが、アマチュアがホームビデオカメラで撮影する場合、そうは行きません。
そこで顔認識AFはとても頼りになると思っていたんですが、実際にはホワイトバランスを固定にすると顔認識は使えません。
これに気づいたときは本当に頭にきました。
現在、家庭用のビデオカメラでマニュアル操作リング/ダイアルがついているものはハイグレードモデルに限られていて、数は決して多くありません。
しかも、マニュアル操作ダイアルつきだからといって私のカメラのように制限が掛けられていたのでは、ほとんど意味がありません。
そこで友人に対しては自然と「DVDの仕上がり(画質)にあまり期待しないで」、「本格的に舞台の記録を残したいなら、絶対に業務用ビデオカメラがいい」というグチになったというわけです。
画質はやっぱり最新大型センサー
さて、オートフォーカスとホワイトバランスの話は終わりましたが、もうひとつ画質の話が残っています。
これも、業務用カメラの圧勝が当然予想されます。
少し前まで、家庭用カメラ(民生機)は4Kなのに、業務用機はまだフルHDというケースもありましたが現在では業務機もほぼ4K対応になったようです。
しかし、今回のカメラ選びで問題にしているのはそこ(画素数)ではなく、暗所性能とダイナミックレンジです。
つまりステージの暗いところを撮影したときざらざらしたノイズが乗らないこと、そして明るいところと暗いところの差が極端に大きいステージ上で白飛びや黒つぶれが起きにくいこと。
こういった点について、ブライダルカメラマンをやっている別の友人に訊いたところやはり業務機のほうが圧倒的に優秀ということでした。
デジカメセンサーとは大きさの基準が違う
とはいっても、業務用機も千差万別。放送局がスタジオで使うようなもの、ロケ用の小型のもの、映画制作向けのものなどいろいろです。
そこで手が届きそうなローエンド帯のモデルについてスペックを調べたところ、最新の4Kモデルでも撮像素子の大きさが1/3型程度や1/2.3型程度のモデルがあるとわかりました。
1/2.3型といえば、小型デジタルカメラでは普及価格帯に使われるサイズです。
ひょっとしたら業務用といっても低価格モデルだと暗所性能は期待できないのか、と不安がよぎりましたが、自分の私物HDカムを調べたらなんと1/3.9型でした。
これと比較すれば、1/2.3型でも充分に大型センサーです。
友人カメラマンが、業務用は段違いに暗所性能が高いといっていたのが納得できました。
4K時代のローエンド業務用カメラは1型センサーが多い
先ほど、最新4Kモデルでも1/3型や1/2.3型程度の機種があると言いましたが、マーケットでの主力はそれより大きな1型センサー搭載モデルのようです。
当然センサーが大きいので、暗所にはさらに強いはず。
幸い、友人が確保してくれた予算がかなりあったので、1型センサー搭載モデルに絞って機種選びを進めることにしました。
大判センサーのデメリットはAF性能の向上がカバー
センサーが大型化することのデメリットもあります。
ひとつは光学系要するにレンズが大きくなること。
これはカメラの価格が跳ね上がる、カメラ自体が大きく重くなるといったデメリットもありますが、撮影(収録)という点に関しては、被写界深度が浅くなってピントがシビアになるのが問題です。
この点については、最新モデルでは像面位相差センサー搭載でAFの速度、精度ともかなり向上しているようなので、オートフォーカスに任せた方が安心でしょう。
明暗をキレイに描き出すHDR撮影
舞台撮影では、明暗差が大きいのも要注意です。
極端に明暗差が大きいと、光が当たったところは白飛び、ほかは黒つぶれでなにが映っているかわからないということにもなりかねません。
こういうときありがたいのが、最近普及しはじめているHDR(ハイダイナミックレンジ)収録です。
もとももと大型センサーでダイナミックレンジに余裕ができているのに加えて、HDR収録に対応していればより自然で高画質な映像が期待できます。
機種によってはより高度なLOG収録が可能なものもありますが、LOG収録はどちらかというとよりクリエイティブに色を補正・加工するためのもので、映画・映像作品向け。
それに対し加工しなくても使える扱いやすい画が撮れるHDR収録はニュース映像や記録向けといったところでしょうか。
今回担当するようなシンプルな舞台撮影ではLOG収録まではいらない、というよりHDR収録のほうが手軽でありがたいといえそうです。
まとめ - こんな基準がいいかな、と思った
あまりビデオカメラについては知識がありませんでしたが、このように私物カメラの弱点を洗い出すことでカメラ選びの基本方針をまとめました。
- 舞台撮影ではマニュアル操作のカメラが欲しい(WB、露出)
- 家庭用ビデオカメラ(民生機)は思わぬところに機能の制約が
- 画質は大型センサーが有利だがピントに注意
- 高速・高精度のAFが必須
こうして自然と業務用カメラが視野に入るようになったところに、先に触れたように予算確保のめどが立ったので、これはもう業務機でいくしかないと決めました。
実は、当初、依頼者である友人のほうは業務用の中古機という意向ももっていたようです。
しかし調べてみると、手頃な価格で出てくるのは一世代古いフルHDモデルが多く、当然最新モデルのほうが画質、AF性能とも進化していること、予算が意外に潤沢だったことなどから、比較的早い段階で現行モデルから選ぶ方向にシフトしました。
個人的な推測ですが、一世代前のモデルしか出てこないのは、減価償却が終わったモデルが流れてくるタイミングの問題ではないかと考えています。当然、ブライダル用などで頻繁に使われた個体が多いでしょうからコンディションにはばらつきがある可能性があります。
このあたりは、裕福なハイアマチュアがどんどん最新機種に買い換えていくスチルカメラとは違いがありそうだと考えています。
長くなったので、今回は機種選びの基本方針にとどめて、次は、実際にどんな機種を選んだかを詳しく紹介したいと思います。